援助は市場を歪ませるか

ニカラグアの今の職場で働き始めた時から仲良くしてくれていた、Kちゃんという子がいました。

僕は、彼女と一緒に沢山お客さんの所を訪問して、彼女にここでの仕事の大半を教わりました。ニカラグアで最もお世話になった人の一人です。



昨年末、Kちゃんは僕に言いました。

「タイキ、あたし来年からもうここにはいないんだ。今日ボスから言われたんだけど、経費削減の為に人員削減をしていて、あたしももうここで働けなくなるんだ。ありがとうね、タイキと会えなくなるのは寂しいよ。」




今年のはじめ、年始の事業計画の会議で、ボスが僕に言いました。

「タイキにはKちゃんがやっていた仕事を引き継いでほしいんだ。Kちゃんが回っていた顧客の所を回って、新規顧客の開拓にも参加してほしい。」






さて、ここでふと考えたことは

「彼女は俺がいるからクビになったんじゃないだろうか」

です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今僕が働いているNGOは僕に一銭も払っていません。僕の給料(といっても生活手当みたいなもので多額ではないですが。。。)は全て日本国民の税金から来ています。

僕が今働いているNGOは、NGOといえど、顧客にサービスを提供して、それの対価としてお金をもらっている、という点で、民間企業と変わりません。事業を継続する為には資金が必要です。

当然、ただ働きしてくれる僕みたいな人間は、ありがたいです。


Kちゃんはニカラグア人なので、当然僕よりスペイン語ができるし、僕より仕事ができます。なので、僕とKちゃんの給料が同じであればKちゃんを雇用し続けたいはずです。

ただ、僕に対するNGOの負担はゼロです。なので、多少効率が下がったとしても、Kちゃんをクビにして、僕にその仕事を任せた方が、NGOの経営としては効率的です。







ここに、「援助」の大きな問題があります。果たして、「援助」は良い事をしているのだろうか?僕は一人の雇用を奪ったのでは??

彼女は結婚もしていないし養う家族もいません。親と一緒に住んでいます。だから、「また次の仕事を探すよ」と言っていました。でももし彼女が1世帯の唯一の稼ぎ主だったら? そういうシングルマザーはニカラグアにたくさんいます。



逆の立場で考えてみましょう。今、僕は日本の会社で働いています。そこに、海外から人が「援助」という名目でやってきました。彼は日本語ができないため、僕より仕事はできませんが、僕の会社は彼に全くお金を払わなくてよい為、少し効率が落ちる事を覚悟の上で彼に僕の仕事を任せ、僕を解雇しました。

僕はどう思うでしょうか?



Kちゃんはなんと思ってるのでしょう?

僕ならこう思うかもしれません。「いくら一生懸命働いても、給料ゼロの奴にかなうわけないよ。不公平だなー、こっちは一生懸命働いて稼ごうと思っていたのに。」


援助はニカラグア人の働くモチベーションを阻害してはいないでしょうか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これはもう少しマクロなレベルでも起こります。



うちのNGOの事業の一つにマイクロファイナンス、というのがあります。これは、小さい金額のお金を小さいビジネス(小さいパン屋さんとかコンビニ、自動車修理工場)を始めたい人に貸して、彼等がビジネスを始めて収入を得られる様にしよう、というものです。

詳しくはこちら→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9


これは、貧困を削減する手法として有名になった手法で、様々な国で様々な機関が実施しています。

そしてうちのNGOもやっている、というわけです。


さて、お金を貸すには当然、元手が必要です。その元手は、通常の銀行は一般市民の預金(うちらが銀行に預金しているお金)、という形で手に入れるのですが、うちのNGOは銀行ではないのでそれはできません。

かわりに、援助機関が貸してくれます。



さて、2年くらい前、ドイツのとある援助機関がやってきて言いました。「ニカラグアのA地域は貧困が集中しているので、マイクロファイナンスの手法をつかってこの状態を改善しないか。うちが無利子でお金を貸すのであなたたち(うちのNGO)がそれを使ってマイクロファイナンスプロジェクトを実施してほしい。3年後に元本だけ返してくれれば良いよ。」
(海外の機関は、ニカラグアでの知見がないので、お金を提供して、実際のオペレーションは地元のNGOに任せる、ということがよくあります。)



うちのNGOは当然OKです。マイクロファイナンス金利は大体、年率20%弱です。(日本で20%の年率というと、超高利貸しですが、ニカラグアはインフレ率が8%くらいなので実質では10%強で、それほど高利貸しというわけでもない様です)なので、他のマイクロファイナンス機関よりちょっと安い金利、15%くらいで貸しても、元本だけ返せば良いので、15%の利子分はまるまるうちのNGOの利益になるからです。






ということで、うちのNGO金利15%で融資をし、他のマイクロファイナンス機関は金利20%で融資をしだしました。(分かりやすく数字を丸めてあるので実際の数字は違います。)当然、ビジネスを始めたい人達はうちのNGOから借ります。金利が安いのですから。



さて、これの何が問題でしょうか。


このケースの場合、他のマイクロファイナンス機関は融資をする事が難しくなります。当然です、皆、金利の低いうちのNGOから借りたいわけですから。彼等はどう思うでしょうか?

「あのNGOは外国の機関から無利子でお金を借りてるから利子をあんだけ低く(15%)抑えられるんだぜ。うちも外国で無利子でお金かしてくれるとこないかどうか探そうぜ。そしたらうちも金利が安くできて、もっとお客さん獲得できるぜ。」



こうして「援助獲得競争」が始まります。






もし、どこも無利子でお金を貸してくれる外国の機関がなかったら、何を考えるでしょうか。

「利子を低く抑える為には、貸し倒れ率(貸したお金が返ってこない率のこと)を低くしなければならない。(貸し倒れ率が高いと、その損失分をカバーする為に金利を上げないといけなくなります)そうするには、お客さんが健全なビジネスをしてお金を返してくれることが一番だから、お客さんに資金繰りの講義をしよう」

とか

「利子を低く抑えても利益を出す為にはより多くのお客さんを獲得しなければならない。もっと沢山お客さん(=小さいビジネスを始めたい人)をさがして融資をしよう。」


となるはずです。





さて。「無利子でお金を貸してくれる外国の機関探そう」というモチベーションと、「お客さんにより知識を持ってもらえるよう教育をしよう」「お金を必要としている人を探そう」というモチベーション、どっちがニカラグアの国の為になるんでしょう?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ニカラグアの国の為にただで自分の知識を提供しよう、というタイキ少年の志と、貧困を削減する為に無利子でお金を貸し出そう、というドイツの機関の志、双方共に悪いものではないように見えます。






ただ、それは、残念な事に上手く働かない場合もあるのかもしれません。






援助が悪い事だとは全く思いません。日本も、戦後の復興期に援助を受けました。困っている人に何かをしたい、という多かれ少なかれ誰もが持つ情熱は素晴らしいものだと思います。



ただ、それが何を引き起こすかを事前に考察する冷静な頭も大事だと思います。