僕たちは自分が本当に何が欲しいのかを知っているのか。(Needs と Wantsの話)

さて、いわゆる「途上国」で「貧困削減」みたいなことに関わっていると(*1)、山道をがたがた車で3時間行ってやっと着く村、みたいなところに行く機会が結構あります。

都市から隔離された、農村部の村々です。

こんなところ。

(*1)実は僕は、「途上国」、「貧困削減」という言葉、どちらもあまり使いたくありません。理由は別の記事ででも説明しますが、この記事ではとりあえず分かりやすい様に、この二つの言葉を使います。




さて、だいたい途上国のそういう村はめちゃめちゃ暑いので、着いたらとりあえず小さな売店みたいなところで水を買いたくなります。

でも「水のボトルくださーい」と言うと

「いや水はないよ」みたいなことがよくあります。


「は?水売ってなくてどうやって生活しとんじゃ?」


となるわけです。



さて、協力隊とか、開発の仕事とかで、途上国で働いた事のある人ならもう察しがつくかもしれません。



どんな小さな、遠隔地の村にいってもあるもの。そう。




Coca Colaです。





そう、彼等はどうやら、コーラを水の変わりに飲んで生活している。コーラを飲み過ぎると気持ち悪くなる僕的には信じられません。


以前、ニカラグアにいた時に、「いや、俺コーラ嫌いなんだよ。水欲しいんだけど」と言ったら、おっちゃんが自慢げに「お前、ニカラグアと言ったらコーラだろ。コーラ飲まなくてどうするんだよ」と言ってきました。


いやいやいや。笑 お前違うだろ。笑   どんだけアメリカ的資本主義に汚染されてんだこのやろー。笑


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



さて、「貧困削減」みたいな仕事をする上ですることは、貧しい人の「ニーズ」を満たすことです。

奇麗な水が飲めない、衛生的な食事が十分に摂れない、子供に教育を受けさせられない、雇用がない、といった状況を改善していくことが貧困削減の第一歩です。

これら(水や食料、教育や雇用)は、誰もが必要とする「ニーズ」です。



?ですよね?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



でもここで考えるべき事があります。

上に紹介したような村では、コーラが水に取って代わっています。



村人に聞いたら、水よりコーラが欲しい、と言うと思います。なんせ、水をくださいと言ったら、コーラを飲め、と怒られたくらいですから笑





さて、では、コーラが彼等の「ニーズ」なんでしょうか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「貧困削減」のプロジェクトは大体、村人達にインタビューして、話を聞いて、彼等が何を欲しているのか、彼等が将来どういう風に生活を改善していきたいのかを聞き出す所から始まります。

彼等の「ニーズ」をしっかり把握することが大事です。





でも、彼等が「ニーズ」と思っているものは本当に「ニーズ」なんでしょうか?


もし彼等の村にコーラがなくて、隣の村にコーラがあり、彼等が、「まずコーラが欲しい!」と言ったら、それをニーズとして認識し、貧困削減プロジェクトの一環として、コーラを配布したり、コーラのビジネスチャネルを呼び込んだりするんでしょうか?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こんな話をすると、「やっぱり貧しい人達は教育がないから、コーラが体に悪いと知らなくて、毎日何リットルも(そう、彼等は実に、1日何リットルもコーラを飲みます。笑)コーラを飲んじゃうんだろうな」と思うかもしれません。



でも、これって貧しい人々に限った事でしょうか?






先進国の人々がiPhoneiPadを欲しいのはニーズでしょうか?


パソコンは?確かにパソコンがなきゃできない仕事は沢山あるので、そういう意味では「ニーズ」なのかもしれませんが、別にパソコンを使わない仕事もあるはずです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕らは皆、本当に自分が何を欲しているのか、自分では知らないのかもしれません。


でも、皮肉な事に、これはiPhoneiPadを生んだスティーブ・ジョブスが言った言葉です。



「ニーズを把握するのではない、ニーズは創りだすものだ」
「消費者はモノを見せられるまで、自分が本当に何が欲しいのか知らない」


と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



コーラはあなた達の本当の「needs」じゃないんだよ、それはコカコーラ社の宣伝によってつくられた「wants」なんだよ!!! と言いたい。教えてあげたい。





でもこれは傲慢な思想でもあります。




なぜならそれは、「あなた達貧しい人々の本当の『ニーズ』は我々先進国の人の方がよくわかってるよ」、と言っていることにもなるからです。







健康によくない、と分かってても先進国の人々がやっていることなんてたくさんあります。

酒、タバコ、etc etc....


でも、楽しいからやる。



コーラを飲むのもそれと同じでしょう。

こういう貧しい村の人々も、コーラが体に良くないことを、驚く程良く知っています。「体に良くないって分かってるんだけどね、おいしいから飲んじゃうんだよね」と彼等は言います。





ーーーーーーーーーーーーーー


NeedsとWants、どこで線をひいたらいいんでしょうか?

線なんてひけるんでしょうか?

誰が線をひくんでしょうか?