(貧困削減 その4) マイクロファイナンス批判 マイクロ保険編
さて、こないだの記事でも紹介したように、マイクロファイナンスは小額の融資だけでなく、小額送金や小額預金、小額のリースといった他の金融サービスも含む概念です。
今日は、その一つである、小額保険=Micro Insuranceについて考えてみます。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
さて、このブログを読んでいる人で、保険に馴染みのない人は少ないでしょう。海外旅行保険や損害保険、医療保険や生命保険等、様々な種類の保険が世の中にはあります。
なので、保険を特別なものと考えた事のある人は少ないかもしれません。
しかし、保険の発明は人類の大きな転換点だったらしい。
昔は、未来はコントロールできないものである、というのが主流な考え方でした。
未来は神だけが知っている。神に任せよう。神に祈ろう。
それが、保険が発明されて、未来のリスクがある程度ヘッジできるようになった。
参考
- 作者: ピーターバーンスタイン,Peter L. Bernstein,青山護
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: 文庫
- 購入: 9人 クリック: 185回
- この商品を含むブログ (78件) を見る
そう、保険の本質は「未来のリスクヘッジ」です。
将来、病気になってしまうかもしれない。モノを壊してしまうかもしれない。交通事故を起こしてしまうかもしれない。海外旅行に行ったときに病気になってしまうかもしれない。
だから、今のうちから少しずつお金を払っておいて、もしそういうことがおこった時の為に備えておこう、ということです。
なので、リスクの高い人程、保険という商品が役に立つ、ということができます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、いわゆる「貧困層」と呼ばれる人達は、極めてリスクの高い暮らしをしています。
普通、「貧困」というと、「収入が少ないんだなあ」と思う人が多いかもしれません。それは間違ってはいないのですが、「収入が少ない」ということは貧困層の暮らしの一面しか捉えていません。
貧困層の人々は、収入が少ないだけでなく、その収入が不安定である、ということにも苦しめられています。
例えば、世界の貧困層の多くは、途上国の農民であると言われていますが、彼等の収入は、気候や疫病、作物の市場価格によって大きく左右されます。
なので、非常に不確実性の高い、言い換えれば、リスクの高いビジネスをしています。
このように不確実性が高い事で、不利益を被っていることが多い。例えば、1年に2回しか収穫期がないような農業では、農家は1年に2回しか現金収入がないことになります。
そうすると、例えばそのうち1回の収穫量が干ばつでゼロになったとすると、家計は大打撃を受けます。
だから、こういうことに備えて、貯金しなければいけないから子供を学校にやれない、生活レベルを落とさないといけない、という事になってきます。
参考→ CGAP: http://www.cgap.org/photos-videos/how-poor-manage-their-money
もし、天候インデックス保険サービス(干ばつが起きた際に、それによって被った被害の何%かを補填してくれる保険サービス)があれば、月々少しずつ保険料を払ってもそういうリスクをヘッジでき、安心して子供を学校にやることができたりします。
なので、途上国に住む貧しい人々こそ保険が必要です。
今僕がやっている仕事の一つがこれです。フィリピンという非常に災害に見舞われやすい(リスクの高い)地に暮らしている農民の人々が利用できる保険サービスを作れないだろうか、ということを模索しています。
さて、ここまではOKでしょうか?
ーーーーーーーーーーーーー
ここからが、僕の得意の、「ものごとをナナメに見る」セクションです。笑
上に説明した様に、貧困層はリスクの高い生活をしています。
例えば、主に家庭でお金を稼いでいるお父さんが亡くなったりすると、一家は路頭に迷うことにもなりかねません。
そこで、そのリスクをヘッジできるのは?
そう、生命保険です。
生命保険があれば、貧しい家庭は万が一稼ぎ頭が死んでしまったとしても、路頭に迷う事はありません。
なので、生命保険を途上国で販売する事で人々の生活を改善する事ができる!!!
はずですよね?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
生命保険は、昔、西欧では禁止されていました。
なぜなら、それは、「人の命をお金に換算すること」にもなるからです。それは、キリスト教の価値観として、NGだったらしい。
参考:
What Money Can't Buy: The Moral Limits of Markets
- 作者: Michael J. Sandel
- 出版社/メーカー: Farrar, Straus and Giroux
- 発売日: 2013/04/02
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
そして、生命保険から派生した商品は、現在アメリカでも物議を醸しているらしい。
Viatical Settlementというものをご存知でしょうか?
参考→https://en.wikipedia.org/wiki/Viatical_settlement
仕組みは簡単です。ここに病気のAさんがいたとします。その人は余命3年と診断されてしまいました。その人は生命保険をかけていて、その人が死んだ際には1000万円が支払われます。
そこに、Bさんが現れて言いました。「Aさん、今、800万円上げるから、あなたが死んだ際に1000万円受け取る権利を私に下さい。あなたはその800万円を使って、残りの3年の人生を楽しめるし、悪い話じゃないでしょ?」
これがViatical Settlementの仕組みです。
これは、一見悪い話じゃない様に見えます。Aさんは、800万円を使って余生を満喫できますし、Bさんは200万円儲かります。いわゆる「Win-Win」の関係です。
しかし、これには問題があります。
この仕組みが成立したとすると、Bさんはなんと考えるでしょう?「Aさん、早く死なないかなー。早く死んでくれれば1000万円もらえるのに。」こう思わないでしょうか?
もし、Bさんがこの仕組みでビジネスを行っていたとしたら、そう思うインセンティブは更に強くなります。上の例の場合、3年で200万円の利益、と計算していたはずです。それが、もしAさんが1年後に死んでしまった場合、1年で200万円の利益。つまり、利益率は3倍になります。
実際、こういうビジネスをしていた「投資会社」は、効果的なエイズの薬ができたときに大損したらしいです。
人の死を願う人々が出てくる。これが、このビジネスの倫理的な問題点です。
さて、このように、生命保険を導入することで、失われる価値基準、というものがあるんではないでしょうか。
例えば、ある村では、死んだ人がでたら、それを神のお迎え、という風に受け取り、残された家族は村の皆で共に支える、みたいな文化があったとしたらどうでしょう? (これは例です。本当にこういう村があるかどうかは知りません。でも、世界のどこかにはこれに近い村はあるだろうなー、とは思います。)
そこに生命保険という商品を導入することで、人々の「死」に対する態度が変わってきやしないでしょうか?
莫大な保険金を受け取った家族が、周りから妬まれる、というようなことはおきやしないでしょうか?
保険金殺人のようなことはおきやしないでしょうか?
死を神様のお迎えと考え、村の皆で残された家族を支える、という文化に変容がおきやしないでしょうか?
また、Viatical Settlementを運営しだすブローカーみたいな奴がでてきやしないでしょうか?
僕の感覚では、必ず出てくると思います。なぜなら、貧しい人程、「今現金が欲しい」と思う傾向にあるからです。
ニカラグアにおいて簡単なアンケートをしたことがあります。
今1000$あげるか、1年後に1500$あげるか、どっちがいい?と貧しい人に聞くと、ほとんどの人は「今1000$」と応えます。一方で、ほとんどの日本人は「1年後に1500$」と応えます。
その理由は色々考えられますが、一般的に、貧しい国に住む人々の方が、今現金を欲しい、と思う傾向にあるのは間違いないと思います。
だから、Viatical Settlementみたいなビジネスは、貧しい国や地域において、流行る可能性は大いにあると思います。また、そういう地域では、概して規制当局の力が弱く、認可されていないビジネスが蔓延ることは沢山あります。なので、Viatical Settlementが倫理的に問題アリと判断されても、そういうビジネスが広く運営される可能性がある、ということです。
(念の為に言っておくと、Viatical Settlementが良いか悪いかは、倫理的な問題なので、一概に悪いとは言えないと思います。そういう価値判断の問題は、また別の話です。)
ーーーーーーーーーーーーーーー
保険という金融サービスを貧しい人が使える様にしたい、というのは間違いなくgood intentionの賜物です。
彼等の生活をよくしたい、彼等が直面しているリスクを緩和したい、という善意からこのようなプロジェクトが行われています。
僕もそうです。
でも、the road to hell is full of good intentions、「地獄への道は善意で敷き詰められている」という風にならない様に、知恵を絞る必要があります。
なにかをする時には、必ずプラス面マイナス面、両方のインパクトがあるはずです。
一見プラス面が大きい様なものも、もしかしたら隠れたネガティブなインパクトがあるかもしれません。
それを分かっておく事、考慮に入れておく事が、責任ある仕事の仕方というものでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、ここまでこんなマニアックな話を読んでくれた方に告知です。笑
今度、またワークショップをしますので、貧困削減やマイクロファイナンスにご興味があれば、是非いらしてください☆
******(以下転送歓迎)*******
University Meets PlaNet Finance
マイクロファイナンス体験ワークショップ〜ブランチマネージャーの1日から見るマイクロファイナンスのリスクヘッジ
【日時】2016年3月27日(日) 14時00分〜16時30分(13時30分開場)
*終了後、希望者の方のみ懇親会を予定
【場所】千代田プラットフォームスクウェア 本館 会議室402:http://www.yamori.jp/access/
【参加費】1000円
【定員30名】 先着順
【主催】特定非営利活動法人プラネットファイナンスジャパン
( http://www.planetfinance.or.jp/ )
【プログラム】
1. プラネットファイナンスジャパン概要説明
2. マイクロファイナンスについての基礎講義
3. ブランチマネージャーの1日(書式紹介)
a. 融資申請書類
b. キャッシュフロー分析
c. ローンユーティライゼーションチェック(融資使途確認)
4. キャッシュフロー分析(ペアワーク)
5. 質疑応答、ディスカッション
【参加申し込み方法】
参加をご希望の方はこちらからフォームをご記入ください
https://microfinance.doorkeeper.jp/events/40385
皆様のご参加をお待ちしております!!